日陰の野球

やきうの話なので、メインのブログ向けの話なのかもしれないが、あそこに書くような内容ではないと思ったので、こちらに書く。
※一部ぼかした表現があります。


ある日、野球の試合を観に行った。割と大きめの大会の試合だった。
私の後ろの席に、ある男性が座った。便宜上Aさんとする。
それからしばらくして、もう一人の男性がその近くに座った。この人も便宜上Bさんとする。
すると、BさんがAさんに話しかけた。大学生ですか?だったか、年いくつですか?だったか、そんな感じの話。
AさんとBさんは他人同士だった。この日はかなり混んでいたので、不本意にも他人同士が隣や近くに座ることはおかしくなかった。Bさんは、何とかありつけた席の近くに自分と歳が近そうな男性がいたということで、話しかけたようだった。
Aさんは大学生だ、と答えた。Bさんは自分と年が近いらしく嬉しそうだった。
私は振り返って見ていないけど、風貌がそう思わせる雰囲気だったのだろう、Aさんに対し、野球部ですか?とBさんはさらに質問する。
Aさんの答えはYes。首都圏からは大分距離のある土地の野球部に所属していて、部から見てこいと指示を受けて、今日の試合を観に来たのだと言う。
……実際はAさんは、自分の所属について具体的な大学名を出していたのだが(ここでは伏せるが)Aさんの在籍しているのは、少なくとも私がアマチュアを見るようになってから、全国大会で見聞きした覚えがない、そんなチームだった。帰宅後調べたが、そのチームが所属するリーグには、私も名前を知っている強力なライバル校がおり、易々と全国大会には進めないリーグだった。実力のほどは、実際の試合内容を見ていないためコメントは控える。全国レベルでさほど有名ではない=弱いとは限らないから。
質問したBさんのほうは、どうなのかわからなかった。ただ、話の感じから、少なくともある程度の野球経験者であるらしいことはわかった。


そんな雰囲気ではあったが、AさんとBさんは、初対面同士特有のぎこちなさはありつつも、お互いに当たり障りのなさそうな野球の話題で会話していた。基本的にBさんから質問したり話題を振ったりして、それにAさんが答えるというやり取りをしていた。
例えば、代打やピンチの場面におけるピッチャー交代のシーンを目の当たりにすると、こういう場面しんどいっすよね、とか。Aさんの主戦場である大学のリーグの話とか。
あと今日の試合には、Aさんの地元の知り合いが出場していたようだった。私でも知っている、ちょっと名の知れた選手ということもあって、Bさんのリアクションは、Aさんにすごい知り合いがいるのエグい、という感じだった。ところで本筋とは全く関係ないが、他校でも多数同じ例を見聞きしたので疑問に思ったんだが、なぜ今時の大学野球部員はエグいを連呼するんだろう。世代か。私の世代だったらヤバいを連呼するようなものか。


試合が終盤に差し掛かり、Bさんは初めてAさんの名前を聞いた。ここまで互いの名前を明かさずにやり取りをしていたのだ。そこでAさんは自分の名前を明かした。
今日はもう1試合残っていたが、Aさんは今見ているこの試合が終わったら帰るのだと言った。
試合が終わり、BさんはAさんに告げた。
「いつか、Aさんが出てるところ見たいっす」
私は最後までAさんとBさんの方を見なかったので、二人がどういう風貌なのか、この時Aさんがどういう表情をしていたかまでは見ていない。
ただ、私も、と思った。